Story
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Saito Seiichi
齋藤精一
(クリエイティブ・ディレクター)

変わらないために、
変えていかなければならない。

2019.09.20 update
2019.09.20 update

時代を読み取り、
イノベーションしなければ
新しくあり続けられない。

デジタル・テクノロジーを活かしたクリエイティブを都市と社会に拡張し未来を創造する「ライゾマティクス・アーキテクチャー」。そんな希有な存在を率いるのが齋藤精一さんその人である。2018-19年グッドデザイン賞審査委員副委員長も務める彼に「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」の感想を聞いたところ、「プロダクトは素人なので、専門的なことはわかりませんが……」と前置きしたうえで、こう話してくれた。

「モノとしても美しいし、道具としても美しい。今年のGマークのキーワードは“共振”だったのですが、今という時代と社会性、そしてこれまで培ってきた伝統を共振させるという意味では、オーデマ ピゲがこの時計で表現していることは、まさしくそれに当てはまる。共振させているものは美しいですよ。成形もきれいで、これは手づくりでないとできないですね」

144年の歴史で培われた伝統を守りつつ、常に革新し続けるオーデマ ピゲと、その最先端である「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」。テクノロジーやデザイン、建築を軸にした作品や表現が“革新的”と評されることの多い彼のもとには、世界に向けてビジョンを発信したい企業や行政から、企画や制作、都市計画にいたるまで、さまざまな依頼が舞い込んでくる。

「僕がやらせてもらっている社会づくりとか、仕組みづくりというのは、イノベーションの連続なんです。要は、“変えないために、変えていく”ということ。伝統はそのままでも続くものだし、それはそれで美しい。でも、その時代の社会性やニーズであったり、科学的にも加工技術であったり、今の時代に合わせていろいろ変えていくべきだと思っています。本当に古いものは別として、今の時代、微妙なラインでアップデートしているものはダメで、刷新するか、今の在り方みたいなものをしっかりサーチして、それを取り入れていかなければ新しいものであり続けることはできないんです。

いま僕は、ある老舗メゾンの展覧会やウィンドウ・ディスプレイをつくらせてもらっているのですが、モノのデザインが変化し、道具として変化しても、革のなめしやステッチなどの技法は100年以上まったく変わらない。オーデマ ピゲもそうですが、モノの在り方としては今の時代、それが正解のような気がしていて、それはチャレンジできるだけの技術や知識を兼ね備えているからだと思うんです。イノベーションは待っていても起こりませんから。そんな気風があり、それを実践しているオーデマ ピゲは素晴らしいと思います」

目指すべきは、
デジタルとアナログが
共存する世界。

職人の手仕事により、257ものパーツによって組み立てられた、いわば“究極のアナログ”である「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」が、デジタル・テクノロジーを駆使した齋藤さんの作品、表現と同じ目線で語られることに、おもしろさを感じずにはいられない。

「近々、いわゆる“デジタルの人”と“アナログの人”の境界はなくなるはずで、なくならなきゃいけないと思っています。今は文化的にみると、雨が降ったあとの水たまりのような状態で、若い子がインスタントカメラで写真を撮ったり、アナログレコードやカセットテープが再評価されたり、ちゃぷちゃぷ遊んでいるような感じ。デジタルもいいよね、アナログもいいよねってなっている状態で、最終的に落ち着くのは、その両方がある世界。両方、適材適所に使われている世界で、人によってどちらが好きかで分かれる時代になると思う。

だから僕のなかでは、ハイテクである必要があるのかなと思うのですが、先ほども言ったように“変えないために、変えていく”立場としては、今だからこそできる表現方法はあるし、今だからこそできるシステムをつくっていかなくてはならないという思いはあります。だからといって、僕のつくるものがすべてデジタルである必要はないと思う。道具として、どう選ぶか。逆にアナログのよさみたいなものをこれからどんどん追求していけば、実はそのほうが正確であったり、美しいものが生まれることもあるかもしれない。デジタルとアナログに関しては、あまりこだわっていないかもしれませんね。ある意味、平等にみています」

時間があるのであれば、
システムとして
美しく使いたい。

都心での生活を離れ、葉山に移住してもう5年目になるという齋藤さん。もともと、仕事とプライベートの境界線を引くことができない性分。東京に住んでいるときは自宅にいてもスイッチをオフにできず、ベッドで寝ることすらできなかったという。

「葉山での生活にも慣れて、だいぶ変わってきました。今では東京に戻るなんて想像もできない。別に東京に住んでいる人を否定しているわけではないのですが、いま都市開発が盛んに行われているなかで、いろいろなディベロッパーさんに話をしていて、東京をちゃんと住める場所にしたほうがいいと。公園や緑が多い都市は希有な存在だと思いますが、なんだか不自然な気がしています。もう少し、土に触れるとか、必要に応じて巣箱をつくってみたり、友達の家の木が倒れていたら幹を直してみたり、そんなアナログ的な部分があってこそ、人が住む街だと思う。東京に住んでいると“デジタル万歳”って感じがして、それはそれで間違っていないのですが、葉山に住むことで、違うモノの見方ができるようになったのはありがたいですね」

そんな齋藤さんにとって“時間”とは、どのようなものなのだろうか?

「“美しく使いたいシステム”ですかね。よく僕くらいの歳になると、時間は3倍必要とか言うじゃないですか。お金も同じでシステム。でも、あるのであれば美しく使いたい。

時間は個人個人に流れているもので、それを他人と無理やり合わせようとすると、ハレーションを起こしたりするじゃないですか。いま、働き方改革でテレワークになったり、大きなチームより小さなチームで動くことをよしとするのであれば、これからはもっと個人の時間の流れが尊重される時代になると思うし、お互いをリスペクトし合った方がいいと思う。ミラーニューロンの法則のように、数学的にも人はそのときの感情で時間の感覚が伸び縮みすると言われているじゃないですか。一時期、会社のスタッフから『齋藤さんの1.5倍の時間が必要です』みたいなことを言われたんです。要は、僕はこの業界で長く仕事をしていて、慣れているからできるけど、若手は僕の1.5倍時間がかかってしまう。だから、『そうか』と。僕のやり方を押し付けても仕方がないというか、彼らの時間を尊重するというか。あまりに遅すぎてもルール的にはアウトですが、考えることに時間を費やす者もいれば、モノをつくることに時間をかける者もいるし、その両方が必要な者もいる。そういった個々の時間軸をリスペクトしたほうがいいと、今では思っています」

決して背伸びをせず
等身大の魅力を表現すれば、
本当に美しいものが見えてくる。

オーデマ ピゲの時計製造に関するノウハウと、時代を突き抜ける“型破り”な開発姿勢をコンテンポラリーアートとともに体感できるエキシビション『時計以上の何か』が、東京ミッドタウン芝生広場で、10月19日(土)〜11月4日(月・振休)の期間中に開催される。

これまで多くのイベントを手がけてきた齋藤さんに、ブランドの魅力を発信するために大切なことは何かとたずねてみた。

「背伸びをしないこと。背伸びをする=そのブランドがもっているものを大きく見せるということだと思うのですが、それは嘘になる。本来であれば、ブランドがもっている、プロダクトがもっている、もしくはブランドのリソースがもっているものが素晴らしいはずで、だからこそ今でもワークするブランドであると思うし、それをもっと多くの人に知ってもらうだけで変わるはず。だから、絵に描いた餅みたいなものはつくらない。それは毎回、徹底しています。

オーデマ ピゲにはこれだけ素晴らしいプロダクトがあり、歴史もあり、スイスの職人さんたちの技術力もある。そういったものを等身大で見せることができたら、本当に美しいものが見えてくると思います」

最後に、齋藤さんの“夢”を聞いてみた。

「無駄のない社会になってほしいと思っています。僕は、大人の事情の産物が嫌いなんです。AさんがいたらBさんはいらないとか、C社がやったらD社はできないみたいな。そういったものを取っ払いたいですね。そうすれば、絶対に世の中はもっとよくなる。世界的にみてもそうですが、まずは東京からなのか、自分の身のまわりからなのか、大人の事情で排除されているものをもう一度見直して、解決していくというのが今の夢です。あとは、自宅が好きなので、家でゆっくり過ごす時間をもっとつくりたいですね(笑)」

齋藤精一
(クリエイティブ・ディレクター)
Seiichi Saito

1975年、神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後、Arnell Groupにてクリエイティブ職に携わり、2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。フリーランスのクリエイターとして活躍後、2006年に株式会社ライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考をもとに、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数つくり続けている。現在、2018-19年グッドデザイン賞審査委員副委員長、ドバイ万博クリエイティブアドバイザーを務める。

Photo:Yuji Kawata
Hair&Make-up:Saori Hattori
Interview & Text:Satoru Yanagisawa
Edit & Direction:Shigenobu Sasaki(Condé Nast Creative Studio)

THE ROOM

新作「CODE 11.59 by AUDEMARS PIGUET」を試着できる
デジタルアート体験空間『THE ROOM』開設中

Information

会期 : 11月26日(火)まで
会場 : オーデマ ピゲ ブティック 銀座 1階 map

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